花魁は「尾」いらん

 落語に、こんな小噺があります。

 江戸のある所に、危うい目に合っているところを八五郎という男に助けてもらった子狸がおりました。その子狸は毎日恩返しにと様々なものに化けて八五郎を楽しませておりましたが、ある日八五郎に「吉原へ遊びに行きたい」とせがみます。

ずいぶんませた子狸だと思いながらも八五郎は子狸を若旦那に化けさせて、吉原へと連れて行ってやりました。

 大門をくぐったところで出くわした花魁道中に子狸は

「こりゃあずいぶんと上手なものだ。狐や狸は尾っぽが無くっちゃあ力が出ないが、この人たちは尾っぽもないのにこんなに立派に人を化かしている。これだから花魁というのは、尾、いらん、と言うのだな。」

と、すっかり感心してしまうのです。

 あんまり長いこと外にいて若旦那のお尻から尻尾が出るのを人に見られちゃかなわない、と、八五郎はさっさと見世に上がります。

待っているのが暇な子狸が狸寝入りでやり過ごしていると、さっきの花魁がやってきて

「お前さん、狸だろう。狸寝入りをしてもだめだよ。さっき道中で見たんだからね。」

と、あっさりすっぱ抜かれてしまいます。

実はこの花魁の言う狸、というのは太鼓持ちという芸人を指す別称で、本当の狸のことじゃあないんですが、そんなことを知らない子狸は、花魁という生き物ってば、化けるのも上手な上に、化けの皮をはがすのも上手なんだわ、と舌を巻いてしまうのです。

 それでもそうやすやすとばれてしまってなるものか、と、子狸が布団をひっかぶってごまかすと、花魁はその布団を引っぺがして更に追い打ちをかけるのです。

「いい加減尻尾を出しな。お前さん、狸だろう。」

とうとう観念をした子狸は、はい、そうです、と返事をします。

そうすると花魁が

「狸なら狸らしく、お座敷で太鼓を叩いたらどうなのさ。」

と言いまして、それに子狸は

「へえ、太鼓は叩けないんですが、腹鼓なら打ちましょう。」

と答えたそうなのです。

江戸らしい小噺

 上のお話は『狸の遊び』と言って、吉原に遊びで忍び込んだ子狸を、別の「狸」つまりどこかのお座敷に呼ばれた芸人だろうと勘違いした花魁がやりこめる、という落語です。

 花魁は主に江戸の吉原で活躍した高級遊女のことを呼ぶ職業名です。その言葉の由来は、花魁たちの妹分であった新造や禿(かむろ)が姉女郎を指して「おいらんとこの姐さん」と呼んだことからきているというのが有力な説ですが、それをして、狸に「花魁に尾はいらん」と言わせたところが江戸らしい小噺ですよね。

 今回はそんな「花魁」についてご紹介していきます。